本日は、猛暑の中お茶の水女子大学のオープンキャンパスにお出で下さいまして誠に有難うございます。限られた時間ではございますが、本学のキャンパスの雰囲気に少しでも触れていただき、また、私共の大学の教育方針をご理解いただけましたら幸いです。
先日、本学の大学院生がある賞を受賞しました。博士課程に在籍する優れた女性科学者を顕彰するもので、厳しい審査で知られている賞ですが、物質科学と生命科学の分野でそれぞれに二人が表彰され、そのうちの一人がお茶大の大学院の学生でした。実は昨年もお茶大生が一人受賞しています。また、学部生でありながら、研究の成果を活かして企業と共同で新たな商品を開発している学生もいます。
学生の活躍は目覚ましく、そして卒業生の進路は極めて多様です。卒業生の調査を基に、職業分類で見ますと、教育関係、公務員、学術研究、情報通信関連、製造業が上位になっていますが、これらの職業分類から、本学の卒業生がまさに社会の知識基盤や政策の場など社会の中枢で多く貢献していることが分かります。
また、お茶の水女子大学の学生は関心の幅が広く、常に新しいことに挑戦しようという意欲にあふれていますが、この気質は、本学の伝統ともいえます。
本学は、日本で最初の女性の理学博士や農学博士、女性として国際的に活躍した初めての研究者が学び、そして教壇に立った大学でもあります。また、大学等の教育機関の創設に関わった卒業生も多く、東京女子大学や現在の共立女子大学、日本女子体育大学等がそうですし、本学の卒業生の会である桜蔭会は、関東大震災の翌年に桜蔭学園を創設しています。
本学は優れた資質を持ち先駆けとなる女性を教育し、そして社会をリードする女性を多く輩出して、国立の高等教育機関としての役割を果たし続けてきました。
創立は137年前(1875年)、東京女子師範学校が設置された時に遡ります。場所は、現在東京医科歯科大学があるところで、新制大学としての本学の名前の由来となった御茶ノ水駅の近くでした。その後、大塚にキャンパスが移転しましたが、その最大の理由は、関東大震災です。大震災を経験した後に大学が移転し、1932年に大学本館が建てられました。従って、この建物はとくに耐震性に配慮されて造られています。また、大学本館は、大学講堂、大学正門、附属幼稚園と共に国の有形文化財に指定されています。正面入り口の上質の大理石や、建物の外側に貼られている当時最新の工法で作られたタイル等、この建物の造りは、日本で唯一の女性のための高等教育機関として設置された本学の教育への期待の高さが象徴されているといえます。
このように、国立の女子大学として女性の高等教育を先導する役割をもつ本学では、教育の理念を次の三点に置いています。それは、「知識」と「見識」と「寛容」です。
大学教育では、確かな知識を身に付けることは必須でありこれが第一の目的です。しかし、それだけでは十分ではなく、確かな専門的知識を基に、物事を適切に判断する力が必要です。正確な知識に基づいて事態を客観的に見極め、適切に判断する能力が見識です。さらに、知識についても生き方の点でも、多様な在り方を理解できる寛容さを身に付けてほしいと考えています。一元的な価値観ではなく、多様な在り方こそこれからの社会の発展をもたらすであろうことに、私たちは今改めて気付かされているからです。また、そのためには、国際的な場面に身を置くことは有効です。そこで、現在、学生の海外派遣プログラムの充実に力を入れています。
こうした教育の理念の下に、本学では不断の教育改革を実現してきました。その内容は教育担当の副学長がご説明しますが、教育の特色は主に次の三点にあります。
第一には、小規模大学の利点を活かした教育です。学生と教員の距離が近く、同時に教員同士も身近な存在です。授業も少人数のものがほとんどで、従って、学生の存在感は大きく、発言の機会も多く、学生も教員も互いに日常的に切磋琢磨する環境にあります。
大学の規模が小さく、専門領域が相互に交流しやすいことが第二の特色です。それによって、新たな時代のリベラルアーツ教育である「21世紀型文理融合リベラルアーツ教育」という文系理系の領域を超えた教育体制が可能になっています。また、昨年度開始した専門教育の新しいシステム「複数プログラム選択履修制度」も同様です。
これらの教育システムの基本的考え方は、既存の分野の区別を前提にするのではなく、課題を発見し、それをどう解決できるのかという観点から専門的知識を深めようという点に特色があるといえます。
このことが可能なのは、優れた研究者でもある教員が教育に当たっているからであり、また、ほとんどの教員が大学院の一研究科に属しているからでもあります。本学では、学部は三学部から成りますが、教員組織は大学院人間文化創成科学研究科です。そのために、文系理系を含めて専門分野を異にする教員が隔たりなくコミュニケーションをとっているというのが本学の日常の姿です。そして、現在、通常の教育に加えて、競争的に獲得した資金による教育プログラムが11件実施されていますが、これは研究に裏付けられた本学の教育の質の高さの証しともいえます。
教育の第三の特色は、国立の女子大学としてのリーダーシップ教育です。本学のリーダーシップ教育は、深い専門性を身に付け、高い見識をもって社会基盤を構築し、社会をリードする女性の育成です。「知は力なり」といわれるように、確かで高度な専門的知識は生涯の支えになります。これを大学で手に入れ社会で活躍していただきたいと考えています。
卒業生が働いている企業の評判は高く、お茶大の卒業生は仕事が確実で責任感が強く、彼女に任せておけば大丈夫、という厚い信頼を得ています。
ところで、リーダーシップ教育の授業の一つとして「お茶の水女子大学論」という授業を行っていますが、これは、学生の要望によって実現した授業です。そこでは、卒業生が大学時代に何を学び、今どのように社会で活躍しているか等について、実際に大学に来ていただいて話を聞きますが、この授業では私も学長として大学の歴史や、教育と研究の考え方を話します。
私の授業終了後に学生が書いた感想を少しご紹介しましょう。
学生の真摯な姿勢、そして秘められた意欲に改めて触れて、私自身が励まされます。本学のリーダーシップ教育では、「知性」、「他者への配慮」、「しなやかな強さ」をキーワードとしていますが、お茶大の学生の皆様が十分にその素質を持っていることを改めて実感するのが「お茶の水女子大学論」の授業です。
このキャンパスはご覧のとおり小さくはありますが、ここには、学部生約2000人、大学院生約1000人、留学生約220人が学び、さらに、ナーサリーから幼稚園、小学校、中学校、高等学校も含めて、毎日、ほぼ6000人の児童、生徒、学生が集い学んでいます。
また、都心にありながら静かで緑豊かで交通の便もよく、恵まれた環境にあります。静かで豊かなこのキャンパスは、学生が思う存分学び、それぞれの知性と個性を磨きあう場となっています。
お茶の水女子大学は、「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現する場として存在する」ことを目指していますが、皆様を入学式でこの講堂にお迎えし、共にそれぞれの夢を実現してゆきたいと思います。
皆様のご参加に心から感謝申し上げます。
平成24年7月
お茶の水女子大学長
羽入 佐和子
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