人間らしい関係でありたい
伊藤貴之(人間文化創成科学研究科研究院 基幹部門 自然・応用科学系 准教授)
私は2年半前に、企業からの転職で本学に赴任しました。本学の教員の中でも、私の講義経験は非常に少ないほうかと思います。そんな私がFDエッセイを執筆するとは、甚だ僭越に感じざるを得ません。しかし、せっかく頂いた貴重な機会ですので、自己の未熟さを振り返る意味も含め、私の講義を紹介したいと思います。
私は理学部情報科学科にて、「マルチメディア」「コンピュータビジョン」「コンピュータグラフィックス」などの講義科目を担当しています。主な内容は以下の通りです。
マルチメディア: |
コンピュータによる映像や音楽の制作方法、それらのインターネット上での配信技術、 これらに関連する文系・芸術系の知識(社会問題や感性など)。
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コンピュータビジョン: |
デジカメで撮影した画像の加工や合成、ビデオで撮影した動画からの内容の理解や検索、 などに関する技術の紹介。
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コンピュータグラフィックス: |
ゲームや映画などの映像製作技術、工業製品のコンピュータ上での設計技術、などの紹介。
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これらの科目ではいずれも、講義中のテストによって理解度を確認するだけでなく、コンピュータのプログラミング等の課題を出し、自習時間に制作して提出してもらうことで、理解だけでなく経験をつけることを目指しています。
以下に、自分が目指す講義の方法論について、いくつか説明いたします。
毎週の講義の最初の10分間に小テストを実施する。
この小テストにはいくつかの効果があります。まず、出席点として成績に加味することを履修生に明言することで、遅刻を防止する効果があります。また、前週の内容を復習する効果もあります。
この小テストは自分にも大きな効用があります。それは自分で席を回って、解答用紙に書かれた名前と顔を照合しながら回収することで、履修生の名前と顔を早く覚えられる、ということです。私は女子学生の名前と顔を覚えるのが苦手ではないようで、この方法により、半期の一科目で学科の大半(1学年40名)の名前と顔を覚えられるようになりました。
私は教員と学生の関係も、人間らしい関係でありたいと思っています。よって履修生とも、できるだけ早く名前で呼べる関係になりたいと思っています。
褒める。
私の講義は板書をせず、PowerPointを用います。履修者は「書き写す」作業が無いので、眠くなりがちです。そこで私は講義中に多くの履修者を指名して回答させることで、緊張感の持続を図っています。そのかわり、いい回答をした履修生を褒めるよう心がけています。(なかなか心がけたとおりにいかないのですが…。)
後述の自由課題でも同様に、いい作品を積極的に紹介し、惜しみなく褒めたいと思っています。大人になっても、褒められれば嬉しいでしょうし、褒められることを次の努力の動機付けにするのは自然な感情だろうと思います。そのような履修生の感情を大切にし、人間くさい雰囲気のある講義ができればいいな、と思います。
ウケを狙う。
一般的に楽しかったことや盛り上がったことは、記憶に残りやすいだろうと思います。私は第1週の講義で何度か、「毎週一度は笑いをとる」と宣言したことがあります。この宣言は、履修生に「この講義は何かが違うぞ」と注目させる狙いもありましたし、また面白い講義を目指さなければならないプレッシャーを自分に課する意味も含んでいました。
しかし、まだまだ私の話術は未熟なようで、「毎週一度は笑いをとる」という目標は全く達成できていません。
カレンダーを公開する。
私は自分の予定をカレンダーとしてネットに公開し、問い合わせのあった学生に見せています。私の在室時間を明らかにすることで、履修生が私を訪問する機会が増えたと思います。訪問理由も講義内容の質問にとどまらず、例えば研究室の見学希望や、大学院への進学を迷っている学生の進路相談なども複数ありました。
このような直接的な対話の機会により、履修生がどのような点で講義科目の理解度が足りないかをチェックできますし、また将来どのような進路を目指している学生がいるかを知る機会にもなり、結果として私自身に大きな効果をもたらしているように思います。今後も引き続き、履修生との直接的な対話の機会を増やす手段を模索したいと思います。
自由課題を与える。
前述の通り、私の講義科目ではコンピュータのプログラミング技術等の課題を与えていますが、その一環で各科目とも、自由課題作品を提出してもらっています。
自由制作は履修生にとって、意欲のわく課題であるようです。自分の好きな写真を加工する、自分の好きな風景を設計する、という自由課題は履修生にとって熱中できるものであり、また履修生どうしが競争するように腕を磨きあう効果もあります。結果として毎年、講義内容をはるかに超えた秀逸な作品が多数提出されます。
複数の履修生から聞いた話によると、できるだけ詳細な説明書とサンプル作品を添えて課題を出すことで、「私にも出来そう」という雰囲気にさせたのがよかったそうです。
今ではすっかり、私自身が制作したわけでもないのに、履修生の作品が私の自慢のタネになりました。閲覧を希望される方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
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