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全学教育システム改革推進本部

試行錯誤の日々−「手さぐり」から「手作り」の授業を目指して

荒木 美奈子(人間文化創成科学研究科研究院 基幹部門 人間科学系 准教授)

 お茶大に着任し、3年目になります。学部での授業経験が殆どなかったため、この2年間は、試行錯誤の日々でした。初回の授業アンケートや各授業でのコメント・ペーパーに目を通すことにより、学生が「国際協力」に対してどのようなイメージをいだいていて、どのような分野に関心をいだき、どの程度の知識や経験があるのかをさぐることから始めました。
 FDエッセイの執筆を依頼されました「国際協力学」は、担当科目のなかで最も基本となる科目です。専門的に学び、将来国際協力の仕事に携わりたいという夢をいだいている学生さんにとっては、長い道のりの「はじめの一歩」となることを願っています。と同時に、大多数の方は、専門として国際協力に携わることはないかと思いますが、グローバル化が進む社会において、国際協力が身近なものであることに気づき、市民による国際協力がどのような形でありえるのかを共に考え、小さなアクションに結び付けていくことができるような授業を目指しています。
 以下に、授業で行っている幾つかの工夫を紹介させていただきます。

1.学生の「声」に耳を傾ける工夫
 「国際協力学」の受講生の大半が1〜2年生で、2006年度は30人程、2007、2008年度が60人程の受講者です。まず、数回にわけて、開発アプローチの変遷、ODAの仕組み、主要なアクター(国際機関、JICA、NGOなど)といった最低限の基礎知識を教えます。この部分は、基本的に講義方式で授業を行っていますが、一方向的な授業にならないように気をつけています。一年目は質問をしても反応がないので、説明が悪いのか興味がわかないのかと悩みましたが、コメント・ペーパーを読むと、質が高く、色々なことを考えていることがわかり、そのギャップに驚かされました。2年目からは、質問をした後、マイクを持って教室を歩き、学生に答えてもらったり、グループ討論・全体発表などを織り交ぜています。授業以外でも個別相談などを随時行うようにしています。

 中盤以降は、村落開発、保健・医療などのセクター別開発や「私たちにできる国際協力」といったテーマを扱いますが、①概説→②ビデオ/DVD、新聞/雑誌記事、ケース・スタディーなど→③グループ討論、あるいは、コメント・ペーパー→Cまとめ、といった形で授業を組みたてます。単に知識を得るだけではなく、批判的かつ建設的に考え、自分なりの意見を述べ、同時に、他者の意見に耳を傾け、異なる意見をまとめていく訓練でもあります(アドバンス科目の国際協力方法論1,2では、少人数のゼミ形式で、この点をさらに深めていきます)。

2.具体的なイメージを膨らませる工夫
 ビデオやDVDによる活動紹介やゲスト講師の講演などを交えることにより「具体的なイメージ」を膨らまし、さまざまな形での国際協力への関わり方、考え方があることを学べるよう工夫しています。

1) ビデオやDVDのストックを増やすように心がけていますが、授業で使用するには、25〜35分くらいの長さが適当だと思います。ジャンルとしては、①活動事例(NGO、JICA、協力隊、アフリカでの個人的な経験など)、②私たちの生活から考える(バイオ燃料、水/ペットボトルなど)、③他の地域の人びとの暮らしなどです。テレビの特集番組などで興味深いテーマのものがある場合は録画しておきます。1年目は、①ばかりを考えていましたが、学生のなかに「国際協力」=「先進国(専門家)が貧しい人々を支援する」というイメージが根深くあることがわかり、私たちの生活がいかに他の地域と繋がり、依存しているかを理解し、ものの向こうにある人びとの暮らしに思いを馳せ、関係性のなかで「国際協力」を考えるという姿勢をまず持つことが大切ではないかと思い、②と③にも力を入れ始めました。
2) 現場で仕事をされている方をお招きし、お仕事の話とともに現場の熱気を伝えてもらっています。インパクトはあったものの、一年目は、授業全体の力点が国際協力の第一線で活躍している人や現場での活動事例に偏ってしまったため、「国際協力とは特別な人がするものだ」、「違う世界の出来事だ」と、逆効果になってしまった面もありました。そこで、昨年は、民間企業に勤めながら国際協力に携わっておられる方もお呼びしました。「本職でなくても、やりたいという気持ちがあれば、色々な工夫ができる」、「国際協力とは何も専門家だけが行うものではないのだ」ということを、それを実践している方に語っていただきました。これは大変評判がよかったです。

3.個性や関心をのばす工夫
 夏季課題では、授業期間中に関心を持ったテーマを選び、文献のみでもOKですが、テーマに関係のあるセミナーやイベント、ボランティアやインターン活動、スタディーツアーや語学研修などの経験をもとに、レポートを書いてもらっています。テーマも多様で、なかなかの力作が多く、私自身も大変勉強になります。私ひとりが読むのではなく、他の学生と分かちあい、かつ、夏季レポートで終わらせてしまうのではなく、そのテーマをさらに深めていくことが大切ではないかと思うようになりました。昨年からは、アドバンス科目の「国際協力方法論1」では、まず夏季レポートのプレゼンと質疑応答から授業を始めています。

4.外へと誘う工夫
 東京では日々、多くの国際協力・開発関連のセミナー、イベント、研究会などが行われています。この恵まれた環境をいかしてほしいと思い、毎回の授業で、旬の話題や、学生が関心を持つ分野のセミナーやイベント等の情報を配信しています。他大学の学生や社会人などの方々と出会うことにより、刺激を受けてもらうことも狙いのひとつです。

5.次へと繋ぐ工夫
 初回と最終回に、関連授業科目の内容を紹介し、履修の仕方(モデル)を提示しています。また、最終回には、大学の評価アンケートの他に独自に作成したアンケートにも答えてもらっています(匿名でも可)。その結果を、次年度や他の科目にフィードバックするようにしています。

 3年目が始まったところですが、新たな気持ちで、今年度の学生に向き合っていきたいと思っています。

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