「学べる」授業
石井クンツ昌子(人間文化創成科学研究科研究院基幹部門 人間科学系 教授)
カリフォルニア大学で20年間教鞭をとり、お茶大に着任してから早いもので3年目に入りました。私が担当している「生活調査法」ではアメリカでの経験をお茶大の講義でどのように生かすかということを考えながら色々な工夫をしてきました。「生活調査法」は後期の「社会調査実習」とともに社会調査士の資格を取得するための科目として登録されいます。そこで「生活調査法」では学生が多くのことを学び、それを実践できるということに重点を置いて指導しています。「生活調査法」では調査票・サンプリング計画の作成、データを収集することを目的としていて、後期の講義では学生が集めたデータを統計的に分析して結果を出すことを目的としています。このエッセイでは前期の「生活調査法」で行っている「学べる」講義に関して私が行っている様々な工夫について紹介します。
1.ノートは取らないで学ぶ
私の授業の大きな特徴はまず学生にノートを取らせず、私の講義に集中して聴いてもらうということだと思います。授業は全てパワーポイントを使用していて、そのファイルを学生全員にメール添付で送信します。これはアメリカでも行ってきたことですが、学生はノートを取ることに夢中になっていて教員が話す肝心な内容が100%頭の中に入っていないのではと思うからです。またface-to-faceで授業をすると、学生がわからない場合、顔の表情に出るので、教える側としてすぐそれが把握できます。その場合、再度説明するなどの努力をしています。とにかく学生が本当に学んでいるのかをチェックできるわけです。またこのクラスはランチ後でもあるので、居眠りをする学生が多い時間帯だと思います。しかし私の顔を見ながら講義を聴いてもらうと居眠りをする学生も殆どいないという効果もあります。
2.女子大生の生活に密着した研究課題の設定を通して研究意欲を促す
このクラスでは研究課題を私の指導のもと、学生自身が設定していきます。研究トピックの選択に関しては可能な限り学生の自主性や個性を尊重しています。私の学部ゼミのモットーは"Let's get excited about research."ですが、それをこのクラスでも実践しています。つまり、学生は自分の本当に興味のある社会事象を選択すると自ずからその調査に大きな関心を持ちながら研究や調査を進めていけるからです。この2年間、「女性は何故牛丼チェーンに一人で行きたくないか」「女子大生のブランドグッズ志向」「何故スターバックスは流行っているのか」「女子大学の人間関係」など女子大生の生活に密着した様々な研究課題が提示されました。教員としても興味深い研究課題が多くあり、学生のCreativityに驚嘆することが多いです。
3.行動を通して学ぶ
「生活調査法」の重要な目的のひとつに自分でデータを集めることがあります。調査についての机上的な知識を身に付けるばかりでは社会調査について完全に学んだとは言い難いと思います。データを集めるという「行動」を通して調査の実際を学んでもらうことは重要だと考えています。
4.グループディスカッションにより学ぶ
社会調査に必要な研究課題の設定、サンプリングの選択、調査票の作成方法などについての講義後、必ずスモールグループディスカッションを行っています。着任当初、私が持っていたお茶大生の印象はカリフォルニア大学の学生より「静かである」というものでした。しかし、グループでディスカッションを行ってもらうと、とても活発な話し合いができるということを「発見」しました。そこでグループディスカッションをすることにより、講義でカバーしたことを更に具体的に学べると思いました。グループディスカッションの内容は必ず提出してもらい、次回の講義のパワーポイントに入れて、その内容についてのコメントを私と学生が一緒にします。このプロセスを通して、学生は講義で得た知識を実践的なレベルで再度学ぶことができていると確信しています。
5.共同作業
「生活調査法」では各学生が調査票を作成しますが、それを履修生全員に配布して、共同で調査票へのコメントや提案を出します。このような共同作業をすることにより、他の学生が作成した調査票を評価しながら自分の調査票をよりよいものにしていくことが可能です。アメリカの教育学関連の研究では、「他人に教えるあるいはコメントをすること」で一番多くのことが「学べる」という結果があります。自分が講義で学んだ知識をもとに他の学生の調査票を評価するあるいは間違いを指摘するということは学生にとって多くのことを「学べる」機会になっていると思います。
これまで私のクラスでは色々な工夫をしてきましたが、カリフォルニア大学で実践してきた指導法がお茶大でも十分通じることがわかったのは私にとって大きな収穫です。しかしまだまだするべきことも残っていますので、今後も学生が「学べる」授業を目指して努力をしていきたいと思っています。
|
|
|
|