ワークショップ リポート
第六回「女性のグローバルな活躍のためのワークショップ」(2014年1月23日)報告
講師 石井 由希子 氏
日本紛争予防センター(JCCP)事務局長
青山 彌紀 氏
お茶の水女子大学グローバル人材育成推進センター特任講師
細谷 葵 氏
お茶の水女子大学グローバル人材育成推進センター特任講師
2013年度の最終回となる第六回ワークショップでは、総括としてゲストの講師1名と、ワークショップ主催側であるお茶の水女子大学グローバル人材育成推進センターの教員2名が、フロアと一緒に「グローバルとは何か」について思いや疑問を語り合うトーク企画、「グローバルカフェ」を企画しました。まずは、3人の講師がそれぞれのグローバル体験を語り、話題提供をしました。
まずゲスト講師である石井由希子さんは、「一枚の写真が変えた人生」について話されました。それは、石井さんがイギリスの大学院に留学中でのこと。全てはここから始まったといってもいいかもしれない光景を、石井さんはテレビで偶然目にします。それは、当時起こっていたコソボ紛争(※1996-99年にコソボで起きた、旧ユーゴスラビアのセルビアと独立を求めるアルバニア系住民の2つの勢力の争い)を伝える映像でした。その時のショックが忘れられず、石井さんは国連ボランティアとなり、コソボに赴任する決意をします。1年間のコソボ勤務を経て、修論『共存と和解の行方―紛争後のコソボで行き詰まる欧州主導の平和構築』を書き上げました。石井さんにとってコソボ紛争とは、世界各地で紛争はなぜ起こるのか、紛争後の解決への糸口や課題は何だろうかと見つめなおし、さらに、自分で行動を起こすきっかけを作ってくれたものでした。
大学院を修了後、石井さんはUNHCR(国連難民)等様々な国際機関で勤務してきました。キャリアが順調に軌道に乗ってきた中で、介護等の事情で「中断」することもありました。それでも、国内にいても世界の紛争を解決するための仕事はある、そう気持ちを切り替えて、自分の進みたい道を切り開いていかれました。その地道な努力が認められ、現在、石井さんは日本紛争予防センター(JCCP)の事務局長の任務についていられます。名前の通り、紛争になりそうな事態を早期に発見し、交渉や調停を促したり、被害者の発生を予防するための組織です。石井さんによれば、「このような仕事は、女性に向いていると思います」とのこと。石井さんは事務局長として、外務省や防衛省などの政府機関や、ドナーである民間企業などの出資者に対する折衝を行っています。また実際に現地(主にアフリカ地域)に赴き、日本社会がこうした紛争地域に対してどのようなことが出来るのか、政策提言、アドボカシー活動に余念がありません。学生のみなさんには、世の中の出来事に関心を持ち、そして実際に自分で考え行動できる人材になってほしい、というメッセージをくださいました。
続く講師2名はグローバル人材育成推進センターのスタッフです。本ワークショップのような「グローバル力強化」の企画を運営する側として、どんなことを考えてきたのか、それぞれの海外経験を踏まえて語りました。
考古学?文化人類学を専門とする細谷葵さんは、1992-2002年の間、英国ケンブリッジ大学大学院修士および博士課程に留学しました。そこではカルチャーショックの連続だったといいます。慣れない環境で体調を崩したおかげで良いレポートが書けなかったのに、指導教員から容赦なく批判されたときは、日本的な「黙っていても相手が思いやってくれる」という考えは通用しないこと、また「過程」(熱があるのにがんばった、など)は関係なく、「結果」がすべてである世界の厳しさを痛感しました。友人との関係でも、家をシェアしていたイタリア人とのトラブルでは、一歩日本の外に出れば、日本でいう「常識」をふりかざしても何にもならない、あくまで個人同士の意見をぶつけ合い、互いの理解に至らねばならないのだと身にしみました。しかしそうして裸の自己をぶつけ合うことは、真の友情を育てることにつながります。現在も研究上で困ったことがあれば親身に力になってもらえる、国際学会などで会えば変わらず楽しく盛り上がれる、多くの国籍の友人たちを得たことは、留学の最大の成果だったと細谷さんは言います。ただ、そんな裸のぶつかり合いは、やはり若い頃でなくてはなかなか難しい、皆さんぜひ若いうちに世界に出て、さまざまな異文化交流を経験してくださいと、会場に呼びかけました。そして、「グローバル人材」とは、豊かな好奇心と柔軟な「遊び心」を持つとともに、何をすべきなのか、何が正しいのか、自分自身の行動を判断するブレない基準を持つ、「自分が自分のリーダーになれる人」ではないかとしめくくりました。
続いて、倫理学?哲学を専門とする青山彌紀さんは、デンマーク?ドイツで、修士号取得後、研究員、大学非常勤講師として勤務し、さらにドイツ?フランクフルト大学で博士号をとりました。青山さんのお話は、日本では今、「グローバル」が大きく取り上げられていますが、それはいったい何なのだ? と批判的に考えてみることも大事ですよ、という所から始まりました。青山さんが海外に出た原動力は、ただ、日本を飛び出してやる!という一心だったといいます。青山さんはとある女子中?高校の出身ですが、好奇心が旺盛だった彼女にとって、勉強よりも家庭科や料理実習を重んじる、まるで花嫁修業のような学校生活は、とても窮屈でうんざりするものだったそうです。こんな教育を受けさせられ、ひたすら型にはめられる日本人女性とは、何て不幸なのだろうと考えていたのですが、いざ海外に出てみると、アフリカや東欧の女性たちがもっと社会的に恵まれていない状況にいる現実を知り、ショックを受けました。彼女たちに比べれば、自分の苦労なんてまだ苦難とも言えないということ目の当たりにさせられたのです。そんな海外での数々の出会いが、青山さんを大きく変えてくれたといいます。青山さんが考える「グローバル人材」とは、やはり好奇心に満ちていること、そして、失敗しても恥をかいてもへこたれない精神をもつ人ではないかと提言されました。そして、異文化との遭遇は何も、海外や外国語、外国人との関わりの中だけで起きることではないということも強調されました。人間一人ひとりがそれぞれの文化をもち、そしてともに暮らす人間達の年齢や身体の状態がそれぞれ一つの文化を持っているというふうに考えれば、人生は異文化との遭遇、適応の連続です。職場の文化、子育て、看病、介護 すべてが異文化との遭遇であり適応を求めてくる試練の場です。だからキャリア、家庭、両立どのような道を選んでもだから異文化との共存は避けられないテーマ。そのためにも今からしなやかに異文化と共存する力をつけるべく、外国語や留学、異文化との交流に積極的になることが、よく生きるため のキーワードでは?と締めくくられました。
しょっちゅう笑いも起きながらの和気藹々とした話題提供が終わると、その雰囲気のまま、いよいよ「グローバルカフェ」タイムに突入です。聴衆の皆さんから、多くの質問の手が上がりました。
「海外に行くと日本人であることを、特に意識すると思いますが、先生方はどんな時に、自分は日本人だなあ、と思われましたか?」という質問には、講師3名とも、時間の感覚の違いについて話されました。人や電車が約束の時間に来ないことの方が「普通」である国は多く、そこで時間を守らずにいられない自分は、やはり日本人だと感じるそうです。しかしそこでへこんでしまわず、柔軟に他の時間の使い方を考えたり、郷には従っても日本人の美徳は失わずにいようと自分は時間を守り続けた、あるいはパーッと怒ってあとは忘れた、など御三方三様の対処は、さすがと思わされます。
「海外に行ったことがまだなく、言葉の問題でなかなか一歩が踏み出せません。どうしたら言葉(外国語)に強くなれますか?」という切実な問いには、まず相手を知りたい、話したり聞いたりしたいという好奇心が英語上達の秘訣であり、また映画鑑賞など趣味に結び付けて勉強すれば楽しくやれる、などのアドバイスが提供されました。
「先生方が海外に行くという進路を決める中で、悩み?葛藤はありませんでしたか?」という問いかけには、家族との関係など悩み?葛藤はもちろんあったけれども、最終的には自分の目指す道がはっきりしていれば、いずれ望みはかなうもので、海外行きを実現することもできたのだ、というそれぞれのご経験が語られました。
「世界と比べて、日本もこうであったらよいのに、と思うところは何ですか?」というラストにふさわしい質問には、「物事をおおらかにとらえ、違いを受け入れる寛容性が、もっとあってほしい」(石井さん)、「堅苦しい決まり事ばかりを優先しない、柔軟性が必要。また個人の意見をもっとぶつけ合うこと」(細谷さん)、「日本には、女性の役割などを型にはめる考え方がまだまだ残っている。一人ひとりの個を大事にする気持ちがほしい」(青山さん)という答えが返ってきました。
最後に、司会者の石田安実特任准教授より、「ドイツ元大統領ヴァイツゼッカーの演説に『過去に眼を閉ざす者は、未来に対してもやはり盲目となる』という名言がありますが、3人の講師のみなさんの話を聞いて思うのは『外の多様性に目を閉ざす者は、内なる多様性にも盲目である』ということです。多様性が受け入れられない社会ならばグローバルではありません。今日のこの話を聞いて、グローバルとは何かを考える際、心に留めておいてください」とまとめのメッセージがあり、グローバルカフェは幕となりました。一年の締めくくりにふさわしい、にぎやかで有意義なワークショップでした。
お問合せ
お茶の水女子大学
グローバル人材育成推進センター
担当 石田?細谷?玉村
TEL:03-5978-2734?2736
E-mail:wgws■cc.ocha.ac.jp
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