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2010年オープンキャンパス 学長挨拶

2010年7月18日更新

本日は、酷暑の中、たくさんの方々にお出でいただきまして有難うございます。
お茶の水女子大学の全学を挙げて、この大学での教育や研究、そして学生生活についてご紹介するために準備をしてきました。時間は限られていますが、お茶の水女子大学の一日を有意義に過ごしていただけましたら幸いです。

皆様がいらっしゃるこの建物は「大学本館」ですが、建てられたのは今から78年前、1932年です。
大学は1875年に設置され、今年で創立135年になりますが、創立された場所は「お茶の水女子大学」の名前の由来になった御茶ノ水駅の近く、湯島です。そしてこの大塚の地に大学が移ることになった最大の原因は1923年の関東大震災でした。関東大震災のために本学の前身、東京女子高等師範学校の校舎を焼失し、その9年後の1932年、今から78年前にこの地に校舎が造られたのです。
したがって、この建物は耐震性に優れています。ですが、そればかりでなく、この建物の玄関には質の高い大理石が引きつめられ、建物全体が重厚な造りになっています。再建するにあたり、これほどのものが建てられたということは、当時の国が、ここでの女子教育に大きな期待を寄せていたことの現れだと言えます。
お茶の水女子大学は、その前身である東京女子師範学校(のち、東京女子高等師範学校)以来、女性の自立と国の知的基盤を担う役割を担ってきました。その役割とは、一人ひとりの学生が大学で学ぶことによって自分の持てる力を見出し、知性を身につけてそれを鍛え、そして、それぞれが様々な形でリーダーシップを発揮して社会を牽引することであると考えています。
先日公表されたところでは、企業の女性管理職の割合が8%とのことです。大学進学率が男性55.9%、女性44.2%(平成22年度版男女共同参画白書より)であるにもかかわらず、女性の社会での活躍が著しく低いことがわかります。この点でもお茶の水女子大学がこれまで以上に女性の社会的活躍に貢献する使命があると考えています。

具体的な教育の内容については学部長から説明がありますが、お茶の水女子大学の教育の特色は、大きく次の三つの点にあるといえます。
第一に、少人数教育です。
学生と教員、学生同士、教員同士もお互いに身近な存在です。授業が少人数ですと、当然一人の存在感は大きくなり、そして発言の機会も多くなります。それは、学生も教員も互いに切磋琢磨する機会になるということでもあり、また、お互いを尊重し合うことにもなります。
第二の特色は、専門領域間が融合的であることです。
本学独自の教養教育をお茶大型?リベラルアーツ教育と呼んでいますが、これは文系や理系といった固定的な専門領域の壁を超える視点があって初めて可能な教育体制です。また、来年度から新たに導入する複数プログラム選択履修制の教育カリキュラムも同様に、今新たに求められている学問の在り方を念頭に置いた、専門領域が融合しうる教育システムです。
第三の特色は、女子大学であることです。
この大学では学生は女性です。これが意味するのは、すべての役割を女性が果たすということです。共学の大学の出身者からは、「女子大で学んだ人の積極性が素晴らしい」とよく言われます。授業で発言するのは当然、皆女性です。実験の主導権をもつのも女性ですし、荷物を運ぶのもまた女性です。集団の中での役割をすべて女性が引き受けざるを得ません。自覚していると否とにかかわらず、学生はおのずから一人一人の持てる力を発揮する訓練をすることになります。
のびのびと力が発揮できて、安心して学べる、それがこの大学の日々の学生の姿であり、これがここでの教育の大きな特色といえます。
そして、他の女子大学との違いをあえて言えば、この大学では大学院進学率が高いことです。お茶の水女子大学には約2000人の学部生に対して、大学院生が約1000人います。このキャンパスの学生の3人に1人が大学院生ということになります。そして、毎年、40人程が博士の学位を取得しています。
これは、もちろん安心しての主体的に研究ができるからでもありますが、同時に、この大学の研究水準の高さも物語っています。
研究の質の高さや研究者の育成の歴史は古く、日本で最初の女性理学博士や農学博士、国際的に活躍した初めての日本の女性はいずれもこの大学で学んだ人々でした。そして今、数多くの教育や研究のプロジェクトがこの大学で行われていることも、この大学の教育と研究の質の高さを示しているといえます。

この大学で学んだ卒業生の進路についてもお話ししておきましょう。卒業生の進路は、教育?研究機関、公的機関、金融、メディアなどきわめて多様です。卒業生がそれぞれの場を担い、あるいはその世界を切り拓く役割を担っていることや、生涯にわたって長く社会とのかかわりをもち続けているのもこの大学の特色といえます。
少し遡れば、先ほどお話しした研究者以外にも「日本初」という言い方ができる人としては、日本で最初の女性医師や大学の創設に力を発揮した人々もいます。また、東京女子大学の開学に力を尽くし、後に学長になった安井てつ、現在の共立女子大学の創設に携わった鳩山はる(春子)、現在の日本女子体育大学を創設した二階堂トクヨなどがおられ、卒業生の会である桜蔭会は桜蔭学園を設立しました。
これらはみな、先駆的な女性であり、優れた女性を育てるという創設以来の伝統といえるかもしれません。

今、この大学で学ぶ学生には、学生生活を通して、高い見識と豊かな人間性を備えてほしいと思っています。それが、新しい世界を切り拓き、そして社会を牽引する力になると考えるからです。そのためには、大学時代に確かな知識を獲得することがまず必要です。そして同じように大切なのは、おそれることなく挑戦することです。そのようにして、柔軟で創造的な思考力と精神力を培って、その後のキャリアに生かし、それぞれの夢を実現してほしいと思っています。

少し外的な環境のことをご説明しますと、この大学は山手線の内側に位置し、交通の便がよく、音楽会に行くにも展覧会に行くにも便利ですし、買い物にも便利です。その上、「文京地区」といわれる地域にあって、キャンパスは静かでアカデミックな雰囲気に満ちています。
また、今年中にはごく小さいながら学生寮が新たにできる予定です。この寮は、「ともに住まい、ともに学び、ともに成長する空間」をコンセプトとし、常に新たな在り方に挑戦しているこの大学を象徴する寮にしたいと考えています。
これも一つの例ですが、お茶の水女子大学では、伝統を大切にしながらも時代の変化に敏感に教職員と学生が相伴って新しい夢に挑戦し、それを実現するべく努力しています。

ところで、今私たちがいるのは大学講堂です。これを「徽音堂」と呼んでいます。「徽」は、徽章の徽、つまり「しるし」ですが、「徽音」の意味は、美しい音、よい言葉、りっぱな教え、美徳、などを意味しています。お茶の水女子大学では、入学式も卒業式もこの講堂で行います。ここが学生の皆様にとって、学生生活を始め、そして社会に飛び立つ場になります。1200名が入る講堂は、入学式のときにも卒業式にも満員になってしまいますが、この場を大切にしたいと思っています。この建物には、社会からの期待が込められているとともに、本学の歴史が刻まれ、80年近くにわたって多くの学生がここから社会へと巣立っていった建物だからです。学生時代を象徴するこの空間から学生生活を始め、そして締めくくってほしいのです。
春に、皆様をここにお迎えできますことを楽しみにしております。
今日はおいでいただきましてありがとうございました。